建築熱環境

東大工学部建築学科の授業「建築熱環境」のスライドを元に作成したノート。

建築の環境と空気状態量

ゼロエナジーバンドとは?

例えばエアコンの温度を20℃に設定し部屋の温度が20℃より少しでもずれるとエアコンが仕事をするとする。これではエネルギーを消費しすぎるのでエアコンが仕事をするまでに2~3℃猶予を持たせて20±2~3℃の範囲から外れた時に初めてエアコンが仕事をすると決めるとエネルギーの消費を抑えることができる。この±2~3℃の幅をゼロエナジーバンドという。

アクティブ建築・パッシブ建築とは?

アクティブ建築とは設備を導入して効率的に快適性を求めようとする建築のことで、パッシブ建築とはその逆になるべく自然のエネルギーを利用して快適性を求めようとする建築のこと。冷房を効かせた建物はアクティブだが、通風で部屋の温度を下げている建物はパッシブである。京都の聴竹居はパッシブ建築の良い例。

熱負荷とは?

室内を快適にするために取り出したり与える必要のある熱の量のこと。

湿り空気について

湿り空気=乾き空気+水蒸気
水蒸気の分子量が乾き空気に比べて小さいので、湿り空気の密度は乾き空気より小さくなる。
空気に含ませることができる水蒸気の量は温度によって上限があるため上限を超えると結露する。結露し始める温度を露点温度という。
結露には2種類あって、物体の表面で生じる表面結露、物体の内部で生じる内部結露である。これらは建材の腐敗やカビの発生に繋がる。
湿度の表し方には2種類あり、相対湿度絶対湿度である。相対湿度は空気中の水蒸気分圧の飽和空気と仮定した時の水蒸気分圧に対する比でありよく見る表示。一方で、絶対湿度とは乾き空気1kg中に含まれる水蒸気量(kg)のこと。

比エンタルピーとは?

そもそもエンタルピーHとは以下のようなエネルギー。

H = U + pV~~~(U: 内部エネルギー,~ p: 圧力, V: 体積)

比エンタルピーとは単位質量あたりのエンタルピー。エンタルピーはエネルギーであるから示量性をもっていて、
湿り空気のエンタルピー=乾き空気のエンタルピー+水蒸気のエンタルピー

湿球温度とは?

温度計の温度を感じる部分を湿らせたガーゼで覆うと水の気化熱で温度計は通常の温度計で測った値(乾球温度)より低い値を示す。ただし、空気中の水蒸気が飽和しているときは
湿球温度=乾球温度
湿球温度を測る器具としてアスマン通風乾湿計がある。これは乾球温度計湿球温度計を並べて通風したもの。

空気線図の読み方

空気線図から読み取れる値は以下のようなものなど。

  • 乾球温度
  • 湿球温度
  • 相対湿度
  • 絶対湿度
  • 比エンタルピー
  • 水蒸気分圧
  • 飽和度(比較湿度):空気中の水蒸気質量の飽和空気と仮定した時の水蒸気質量に対する比。相対湿度との違いが不明。
  • 比容積:単位質量あたりの体積。
  • 熱水分比:比エンタルピーの絶対湿度に対する比。
  • 顕熱比:顕熱量の全熱量に対する比。

外界気象

外界気象の7要素

これまでは建物内の環境について考えてきたが、外に目を向けて見る。外界気象の7要素とは以下のようなもの。

  • 気温
  • 相対湿度
  • 法線面直達日射
  • 水平面天空日射
  • 雲量
  • 風向
  • 風速

拡張アメダス気象データとは?

全国に842ヶ所ある気象庁の気象観測所、「アメダス」から作成された気象データ。記録する要素は以下の8要素。

  • 気温
  • 絶対湿度
  • 全天日射量
  • 大気放射量
  • 風向
  • 風速
  • 降水量
  • 日照時間

湿度は日・年を通じてどのように変化する?

日変化については気温と反対に挙動する。年変化については夏が高く、冬は太平洋側は低いが日本海側は高くなる。季節風の影響。

クリモグラフとは?

横軸に月平均相対湿度、縦軸に月平均気温をおいて1ヶ月ごとにプロットしたグラフ。

風配図とは?

ある地域のある季節・時刻に注目して、風の発生頻度を風向ごとにまとめたもの。特に頻度が高くなっている風を卓越風と呼ぶ。

陸風と海風はなぜ起こる?

比熱の関係で海に比べて陸は暖まりやすく冷めやすい。例えば昼は海よりも陸が暖かいので陸では上昇気流が発生し、地上付近の気圧は海に比べて低くなるので海から陸へ風が吹く。同様に夜は陸から海へ風が吹く。

太陽高度・太陽方位角とは?

太陽高度とは地球上のある地点で地面を平面と考えたとき、その地点と太陽を結ぶ直線が平面となす角のこと。太陽方位角とはその地点と太陽を結ぶ直線を平面に正投影した直線が地点から平面を通って南に伸ばした直線となす角のこと。

赤緯とは?

太陽軌道と赤道のズレ角度。夏至に最大(23.4º)となって冬至に最小(-23.4º)となる。春分秋分の日は0º。

時角とは?

時間を角度で表したもの。正午が0ºで-180~180º。このとき用いられる時間は太陽を基準にした真太陽時に平均太陽時も考慮したもの。

太陽から来る放射エネルギーについて

太陽から地球に来る放射エネルギーのうち、約55%は地表に達する前に大気によって散乱・吸収されるが、散乱も吸収もされずに地表に達したものを直達日射と呼ぶ。大気によって散乱されたものが地表に達したものを天空日射と呼ぶ。これら2つを合わせたものを全天日射と呼ぶ。日射を吸収した大気はエネルギーを放射する(大気放射)。地表からも同様にエネルギーが放射され(地表面放射)、これら差分を夜間放射と呼ぶ。夜間のみに起こるものではないが、夜間は全天日射がなくなるため、地表に降り注ぐ放射エネルギーは夜間放射のみとなる。まとめると以下のようになる。
全天日射=直達日射+天空日射
夜間放射=大気放射ー地表面放射

物体の放射についてもっと詳しく

物体は全て表面から電磁波を発しており、その強さは表面の絶対温度の4乗に比例する。表面が黒のとき(入射するエネルギーを全て吸収するとき)電磁波は最も強くなる。

太陽エネルギーに関する数について

大気圏外において太陽の放射エネルギーを受けることを考える。光線に垂直な面(法線面)で受けた際の単位面積あたりの放射エネルギーを太陽定数(W/㎡)という。同じものを大気を通過した放射エネルギーについて考えたのが法線面直達日射(W/㎡)と呼ぶ。これには天空日射は含まれない。天空日射を水平面で受けたときの単位面積あたりの放射エネルギーを水平面天空日射(W/㎡)と呼ぶ。大気の澄み具合の指標として大気透過率という量があり、以下のような量である。

大気透過率=\frac{法線面直達日射}{太陽定数}

水平面に降り注ぐ全天日射J_Hは以下の式で求まる。

J_H = J_D\sin h + J_S~~~~~(J_D: 法線面直達日射,~ J_S: 水平面天空日射,~ h: 太陽高度)

このJ_Hは広く観測されているもので、このデータを用いてJ_DJ_Sの値が決められる。これを直散分離と呼ぶ。直散分離で分かったJ_DJ_Sの値は任意の傾斜角の建築外壁のエネルギー入射を検討に用いられる。

日射の調節について

日射量を調節するのにはあらゆる方法がある。

  • 東西に長い建築は日射を大量に取り入れる。
  • 庇のある窓は夏は日射をカットし、冬はよく日射を取り入れる。
  • 落葉樹は夏は日射をカットし、冬はよく日射を取り入れる。
  • 季節によってモードを変えられるダブルスキンサッシは夏は窓間の空気を換気することで遮熱し、冬は窓間の空気を閉じ込めることで断熱する。

室内熱・空気環境

平均放射温度(MRT)とは?

室内にいる人や物体が、不均一な温度分布をもつ壁から受ける放射熱を考える。この放射熱と同じ量の放射熱を発する均一な温度分布をもつ壁を仮定したとき、その理想的な壁の温度を平均放射温度(MRT)という。

グローブ温度とは?

室内の物体は壁と熱の放射や空気の対流によってエネルギーをやりとりしている。そのやりとりについて平衡状態となったときの温度をグローブ温度という。温度計の温度を感じる部分を直径15cmのつや消し黒色塗料を施した中空銅球の中に入れたグローブ温度計はこのグローブ温度を測るための器具である。

シックビルディング・シックハウス症候群とは?

建築の省エネ化のために建物を気密化した結果、新鮮な外気が取り入れられなくなったり、材料に揮発性有機化合物(VOC)を用いたことが原因となってその建物内にいる人が体の不調を起こすこと。

総揮発性有機化合物(TVOC)とは?

VOCの量の指標となる値。つまり室内環境汚染の指標。

建築物衛生法とは?

名前の通り、建築物における最低限の衛生基準を定めた法律。

温冷感指標

温冷感指標の要素について

暖かさ・涼しさをどの程度感じるかの目安である温冷感指標は環境側の要素として以下の4要素をもつ。

  • 温度
  • 相対湿度(あるいは絶対湿度)
  • 放射温度
  • 気流速度

また、人体側の要素として以下の2要素をもつ。

作用温度とは?

室内の人は放射によって壁と熱のやりとりをし、対流によって空気と熱のやりとりをしている。このやりとりが同じ量行われる温度が均一な理想的な空間を考えた際、その理想的な空間の温度が作用温度である。

等価温度とは?

作用温度に気流による冷却効果を加味したもの。さらに着衣量も加味した等価温度も提案されている。

有効温度(ET)とは?

現在の気温、湿度、風速に対して、湿度100%、風速0m/sの理想的な状態を考える。現在の状態と同じ温冷感になるように理想的な状態の気温を定めたとき、その気温を有効気温(ET)という。これにさらに放射の影響も加味したものを修正有効温度と呼ぶ。

新有効温度(ET*)とは?

湿度100%を基準とする有効温度に対して湿度50%を基準とし、人体側の2要素も考慮したものを新有効温度(ET*)と呼ぶ。さらに、平均放射温度が気温となるような状態を基準としたものを標準新有効温度(SET*)と呼ぶ。

予測温冷感申告(PMV)とは?

温冷感指標6要素を元にした温冷感を表す量。

予想不満足者率(PPD)とは?

その名の通り、室内環境の不快度を表す指標で、PMDの関数である。

不快指数(DI)とは?

予想不満足者率と同様に室内環境の不快度を表す指標であるが、蒸暑による不快度に限定されている。

湿球グローブ温度(WBGT)とは?

熱帯地域での軍事訓練の限界条件を検討する目的で提案されたもの。グローブ温度、気温、湿球温度で表される。

ドラフトとは?

空調をする際の必要以上に強い気流は不快感の原因であるが、その望まれない局部気流をドラフトと呼ぶ。

換気と通風

換気と通風の違いは?

換気は室内空気を綺麗に保つために行うが、通風は涼感を得るために行うもの。

換気について

機械換気と自然換気の二種類があり、そのうち機械換気には以下の3種類がある。

  • 第1種:給気排気共に機械換気で行う。
  • 第2種:給気のみ機械換気で行うもので、室内は正圧となる。
  • 第3種:排気のみ機械換気で行うもので、室内は負圧となる。

また、自然換気は開口部前後の空気の圧力差を利用するもので、以下の2種類がある。

  • 風力換気:風圧を利用する。壁面上の位置によって風圧が変わることを考慮した係数は風圧係数と呼ばれる。

p_w = C \cdot \frac{1}{2} \rho V^2~~~~~(p_w: 風圧力, C: 風圧係数,~ \rho: 空気密度, V:風速)

  • 温度差換気:温度差で生ずる空気の浮力を利用する。

p_i = p_{i0} + g\left(\rho_o - \rho_i\right)h

(p_i: 圧力差,~ p_{i0}: 室内での基準高さの圧力,~ h: 測定する基準からの高さ)

中性帯とは?

室内と外気で圧力が等しくなる位置。

開口部を通過する風量について

通過風量Qは断面積と風速の積で表される。

Q = vA = \alpha A \sqrt{\frac{2\left(p_1 - p_2\right)}{\rho}}~~~~~(\alpha: 流量係数)

この流量係数と断面積の積\alpha A実行面積(相当開口面積)と呼ばれ、換気用に開口部を2つ並列、直列に並べた際の値は以下のようにして計算する。

並列合成:\left(\alpha A\right)_{12} = \alpha_1 A_1 + \alpha_2 A_2

直列合成:\left(\alpha A\right)_{12} = \frac{1}{\sqrt{\left(\frac{1}{\alpha_1 A_1}\right)^2 + \left(\frac{1}{\alpha_2 A_2}\right)^2}}

よって風力換気の通過風量は以下のようになる。

Q = \left(\alpha A\right)_{12}V\sqrt{C_1 - C_2}

また、温度差換気の通過風量は以下のようになる。

Q = \left(\alpha A\right)_{12}\sqrt{2g\left(1 - \frac{\rho_i}{\rho_o}\right)h} = \left(\alpha A\right)_{12}\sqrt{2g\left(1 - \frac{T_0}{T_i}\right)h}

風力換気は比較的大きな換気量が得られるが、風速に左右される。温度差換気は換気量が比較的小さい代わりに安定した換気ができる。

自然換気の排気経路について

自然換気の排気経路には以下の3種類などがある。

  • 通風型:風上、風下にそれぞれ開口部を設ける。
  • ボイド型:建物屋上に流出口を設ける。
  • シャフト型:階段室や専用の縦シャフトに作用する温度差を利用する。

必要換気量

室内に汚染物質が増えないように必要な換気量。

必要換気量=\frac{室内における汚染物質発生量}{\left(外気における汚染物質濃度 - 室内における汚染物質濃度\right)}

貫流

貫流とは?

壁を挟んだ熱の流れ。壁内部で起こる熱伝導と壁で起こる両表面の熱伝達で構成される。

貫流率とは?

単位面積当たりの壁を挟んで1℃の温度差があるときに流れる熱。壁の熱抵抗の逆数で表される。壁の熱抵抗R

R = \frac{1}{\alpha_o} + \Sigma^n_{i=1}R_i + \frac{1}{\alpha_i}

\left(\alpha_o: 屋外側熱伝達率, \alpha_i: 室内側熱伝達率,  R_i: 各材料の熱抵抗\right)

R_i = \frac{d_i}{\lambda_i}~~~~~(d_i: 各材料の厚さ, \lambda_i: 各材料の熱伝導率)

参考

東京大学工学部建築学科「建築熱環境」授業スライド(赤司泰義)